合気道には「なんでこんな事をするの」と思われる不思議な稽古があります。 最近はあまりやらなくなりましたが、数十年前はそんな稽古がたくさんありました。
その一つが「転換」 右手を持たれた時、右足を相手の左足の少し外側につけて、次に相手の背中とぶつかるように右足を軸にして左側に相手と背中をつけるように反転します。
初めてやったときは「変な稽古だ」と思いました。 武術と言いながら、相手に背中を見せるのですから、極めて危険です。 今回はその「転換」の意味を私なりに説明したいと思います。
【1】開祖の動画も見たことがありますが、YOU TUBEでは見つけることが出来ませんでした。 いくつかの指導者のやり方をPICK UPしてみました。
(1)戦後開祖と共に暮らし、長く指導をうけていた斎藤先生の動画です。
【合気道】体術とその稽古法①【岩間スタイル】 – YouTubeの1分10秒のところ。 「握られているところに気をとられず、押したり引いたりせず、無抵抗主義に徹して相手の攻撃をかわす。つま先を合わせ、両手は気の膜で結ぶのである」 というナレーションが流れていますが、よく理解出来ません。
(2)開祖の直弟子で、現在も指導されている多田先生です。現在93歳です。私も指導を受けたことがあります。
第44回全日本合気道演武大会 多田宏師範 (2006年) – YouTube3分15秒のところ 説明はありません。ただいくつかのバリエーションを見せているだけです。
(3)養神館合気道の型です。
【合気道の回転の動きってどうやるの?】塩田剛三の基本動作・体の変更(二)を解説 – YouTube 後ろ足をまっすぐ伸ばす典型的な養神館合気道の稽古方法です。 開祖や合気会の稽古方法とは異なりますが、塩田剛三先生は開祖に二十年近く師事されており、このような稽古方法は「より早く、合気道を身に着けるようにするため」に作ったのでは、と言われております。 説明しているのは塩田剛三先生のお孫さんですが、方法についての説明はありますが、このような稽古をする意味については「相手が押してきたことを想定して動きます」とコメントが掲載してありますが、納得できません。 相手が腕を握って「押してくる」というシチュエーションは通常ないと思いますので・・・。
(4)YOU TUBEでたくさん動画をUPしている指導者の転換です。
初心者の為の合気道 基本技 転換法 「大阪枚方 活法合気道」 – YouTube 転換のやり方を丁寧に説明していますが、何のためにやっているのかの説明はありません。
◆嘗ては、多くの指導者がこの稽古をしていましたが、現在ではあまりみません。 おそらく納得いく説明が出来ないか、自分でもやる意味が分からないからではないかと思います。
◆私もこういった稽古を散々やりましたが、「なんのためにやっているのか」分かりませんでした。 今から数十年前に武道の先生に「なんの意味があるのですか」とは聞けるような雰囲気ではありませんでした。 今は特別どの先生に習っている訳でないので、聞く機会はありませんが、昔の稽古仲間にきいても、納得できる説明はありませんでした。
【2】そこで、この転換が私なりにどう役立っているのか説明しますと、 「重心移動が楽になった」という事です。
◆簡単に説明します。 右腕を掴まれた時は、右足の親指―右側の腰―右肩という軸を中心に、相手に背中を見せるように反転します。 逆に左腕を掴まれた時は、左足の親指―左側の腰―左肩という軸を中心に、やはり相手に背中を見せるように反転します。
これにより、足ー腰ー肩のラインが左右両方で意識できるようになり、また重心の移動が楽になったと思います。
◆それにより、なにが変わったかというと、動きがスムーズになり、上半身がぶれなくなったという事です。 通常の歩き方では、右足を前に出して動くときは、その重心は右足の上に乗るように動き、次に左足を前に出すときは、左足の上に重心が乗るように動くことになります。 即ち、体の重心が足の動きに連動して右、左に<振れる>事になります。 そこでは、右足―右腰、左足―左腰とそれぞれが引っ付き、体を動かすときは、頭を足と一緒の方向に振って歩くことになります。
それが、頭はまっすぐにしたまま、腰から下を左右に動かすことで前進することが出来るようになります。 その結果、頭の上下動が少なくなり、いわゆる「提灯腰」というような上下の揺れがなくなります。
◆そしてもう一つ重要な事は、片方の足に全体重が乗っていると、その場に体が<居つく>事になってしまいます。 次の動作に移ろうとして、反対の足に重心を移そうとするとき、現在足が乗っているところを踏みしめて<筋肉を緊張させて>「ヨイショ」という感じで動くことになります。(大袈裟な表現ですが)
それが<居つく>ことなく動ければ、相手より初動が遅くても、相手の攻撃に十分対処できます。 即ち、<相手を認識し>ー<自分の筋肉に指示を出し>ー<足の筋肉で蹴って>ー<動く>、という 4段階の中の<足の筋肉で蹴って>の部分を省くことが出来るようになるという事になります。
訳もわからず稽古をしていた「転換」ですが、大変重要な稽古だったと、今になって思います。
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