4月になった。 電車に乗ると真新しい服装の学生を見かける。 どことなく体にフィットしていない。 昔流にいうと、「服に着られている」といった状態だ。
◆約半世紀前、昭和40年代後半に大学に入学した。
入学式に出る為に、初めてジャケットを着た。 少しの間そんな格好をした「新・大学生」の一人だった。 当時公立高校から進学するような学生はオシャレには縁がなく、 すぐまたジーパンとセータ―に戻った。 着慣れていないから疲れるのだ。
「モーレツからビューティフルへ」という一世を風靡したCMが流れていた時代だが、 (【懐かCM・1970年】モーレツからビューティフルへ – YouTube) まだ男たちはオシャレに関心がないのが普通だった。
◆大学のキャンパスは輝いていた。
キャンパスは広く、大きな庭園に囲まれ、開放的だった。 教室と校庭と受験勉強だけの<灰スクール>と揶揄された高校とはえらい違いだ。
大学の正門から中庭に繋がる広い歩道に沿って, 両側に銀杏の木が植えられていた。 眩いばかりの薄黄緑色の若葉は、四月の爽やかな風に揺らぎ、その隙間から、 まぶしい陽の光が降りそそいでいた。
気持ちのいい、温かい春の日差しだった。
授業が休講になったのでキャンパスの中ほどにある噴水の前のベンチで、 友人とのんびり話をしていた。
◆不意に友人の言葉が止まった。
振り返ると・・・彼の眼は噴水に繋がる小径の奥にじっと注がれていた。 その視線の先には、テニスラケットを持ち笑顔を浮かべた二人の女子大生がいた。
薄いブルーのミニスカートに真っ白なセーター。 当時流行ったエメロンシャンプーのCMに出てくるような柔らかな髪が風に揺れている。 【懐かCM・1972年】エメロンクリームリンス「ふりむかないで銀座のひと」(2種) – YouTube 端正な顔立ちに満面の笑みを浮かべ、大きな瞳は光り輝いていた。 人生の春を謳歌している。 そして春の陽を体全身で浴び、美しかった。
◆自分もその女性達に釘付けになった。
「きれいやなあ」 友人が思わず口走った。
「ああ」 無意識に頷いた。
その女性達は膝上(多分)20㎝くらいのミニスカートからキレイな足をのぞかせ、 ゆっくりと歩いてきた。 目の前までくると、その程よくしまった健康的な太腿に目が吸いつけられた。
僕の心臓はドクドクと音をたてた。
思わず唾を呑み込んだ。
友人は眼を血走らせ、大きく口を開けていた。 幸い涎は垂らしてはいないが、その手前といった状況だ。
彼女達が目の前を通り過ぎ、やがて校舎の中に吸い込まれると、視界から消えた。 「ふっ」とため息が出た。
しかし、また数人の可愛らしい女性がテニスラケットを胸に抱え、楽しそうに話しながらやって来た。 僕たちは、またじっと彼女達を見つめていた。
◆僕はこのとき初めて、女性を美しいと思った。 彼女達は高校では見たこともない華やかさをもっていた。 そして、その女性達は目の前を通り過ぎ、教室のある建物の中に入って行った。
「テニス部に入ろう」
友人はいきなり口を開いた。
「うん」
殆ど無意識に反応した。
人生で初めて心を動かされた一日だった。
「僕は20歳だった。それが人の一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい。」 (ポールニザン)・・・そんなフレーズがふと口から出た。
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