昔の働き方

昭和の男

今から半世紀前に就職したときは不況だった。                           それでも、なんとか世間的には一流といわれる会社に入った。

就職するときには「君たちの意見も通る風通しの良い会社だ」などと、散々綺麗ごとを言っていたが、会社に入ったら召使のようにこき使われた。                                                  始業時間の30分前には出社を強制され、仕事が終わっても上司に飲み屋に連れていかれた。                                                                                日曜日も会社の野球大会とか上司の引っ越しの手伝いとかに駆り出された。                                                                          残業しても、残業費は僅かしかもらえなかった。                                                                                                 というより、タイムカードを押してから残業させられた。                                                                                                                                                        

                                                     仕事の内容も酷かった。

業者間で価格協定をやっていたのでお客さんにはいつも嘘の説明をしていた。                             「価格では他社には負けません」と言いながら、いつも相手の足元を見て<その競争相手である他社と相談して>値段を決めていた。

相手が企業の場合だとお互い様の部分があるので、それなりになんとか納得した。                          しかし相手が個人の場合、信頼してくれた人の気持ちを裏切ることになり、そのたびに胸が痛くなった。                                              「こんなことをしていいのか」と、上司に言うと「世の中そんな甘いもんじゃない」と怒鳴られた。

結局、堪えられなくなって会社に退職届を出した。                                  上司は「ふざけるな。会社を舐めんな」と、怒鳴った。                                    しかし辞めた。

そんな思いをしたのは私だけではなかったようだ。

大手証券会社に入った友人は「わが社は実力主義の会社だ。努力は必ず報われるから、やりがいのある仕事だ」と誘われ都市銀行を蹴って入社した。

確かに売り上げをあげれば表彰された。                                     しかし、<会社のお勧め銘柄>といってお客さんに勧めた株は一瞬上がる事はあってもすぐに下がった。お客さんに損をさせてしまったので、何とか損失を取り返そうと思い、上司に教えてもらった<支店長のいち押し銘柄>というのを「今度は取り返せますから」といってもう一度買ってもらった。                                                                                                                      

しかし株価は殆ど上がらず、一方的に落ちて行った。

そのお客さんが怒って電話をかけてきたが、何といって良いのかわからず居留守を使った。                                                 会社に怒鳴りこんできたときは、机の下に隠れ、上司が対応した。                                                                                               お客さんが損をしたとしつこく文句を言うと、「わが社の〇〇が勝手に売買したのではないですよね。買ったのはお客様ご自身の判断ですよね」と平然と口にすると、お客さんは黙った。                                                                                               そして捨て台詞を言って支店から出て行った。                                                                                                                                                                                                                 しかし、買わせるように仕向けたのは自分(会社)なので、気持ちがすごく落ち込んだ。                                                                                                        

そんな事が毎月のようにあったようだ。                                                                                      結局はそのあと口車に載せられ殆どの金を失うのだった。                                  時には虎の子の貯金を吐き出し、家を抵当に入れてまで取引をし、結局夜逃げをしたようなお客さんもいた。なんでそんな損をさせるような銘柄ばかり勧めるのか不思議に思ったそうだ。

暫く後で、その会社の進める銘柄についての結果をネットで暴露した記事があった。                           なんと、その証券会社のお勧め銘柄のレポートに従って取引をしても殆ど儲かっていなかった。

それでは損をさせる為に取引をしているとしか言いようがない。                         せっかく信頼してくれたお客さんを失う事になり、会社の損失ではないか。 

しかし、後になってわかったことだが、本社が企業間取引で売買した株の最後の引受先が全国の各支店に回ってくるようだ。                                    本社での企業との取引では、新規上場とか転換社債の発行とか様々な取引があり、それに伴い莫大な手数料が入ってくる。そして外国のファンドとの取引は金額が大きくなり、他方少しでも損をさせると契約を切られるので儲けさせるようにしているのだ。                                         結局、そういった本社の取引で決まった株の<はめ込み先>が支店になるのだ。                                  だから支店には本社から何十万株売れという銘柄が<お勧め銘柄>ということになる。                 そんな株が上がるわけはないのだ。 

結局得するのはそんな無理強いをした支店長、と本社の幹部だ。                             現場で汗水たらしている担当者は、お客さんの信用を失い、クレームが多くなってくると他の支店に移動させられるだなのだ。                                          だから嫌になってやめて行く人間も多く、また会社とお客さんとの間に入ってプレッシャーで精神に異常をきたす人間もいた。

結局友人もその会社を辞めた。

考えてみれば、僕たちの時代は学生と社会とのギャップが大きすぎた。

小学校の教室に飾られていた標語は「豊かな心」、「思いやり」とか「心に太陽を唇に歌を」であり、中学校では「思いやり」「創意工夫」「努力」「絆」、そして高校では「自主性」「個性」「信頼」「協調」といった素晴らしい目標を掲げ、大学に入り真面目に学問(?)と向き合い、立派な社会人となるような教育を受けてきた。                                                                                                                                                                                                                                                                                                           

就活で先輩方のもっともらしい言葉を真に受けて就職することになる。                                   しかし実際に就職すると、企業社会はひどいものだった。                                          当時、企業は体育会出身者を欲しがっていたが、当たり前である。                               授業に出ずに、真面目に考えることもなく、(時にはスポーツ推薦(?)という裏口入学をするような者)が企業の求められる人材なのだ。                             相手の損失など無視して上司の召使になれる人間が求められていたのだ。

                                                真面目に生きてきた人間などは必要がなかったのだ。                                      時代は変わり、コロナのせいで人間関係が希薄になったと言われる。                                      それが良くない事だ・・・という面はあると思う。                                    しかし、企業の人間関係については、デジタルによりデータでのやり取りが中心となり、嘗てあったようなおかしな人間関係もなくなりいい面もあるのではないかと思う。                                               

コメント

タイトルとURLをコピーしました